又吉直樹『人間』

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又吉直樹さん『人間』発売日レポート

2019/10/23

 お笑い芸人で作家の又吉直樹さんが10月10日、東京・神保町に現れた。といっても、お笑いのステージではなく、この日発売となった初めての長編小説『人間』(毎日新聞出版)のサイン会のため、三省堂書店神保町本店を訪れたのだ。

 『人間』は、芥川賞受賞作『火花』、『劇場』に続く3作目で、昨年9月から毎日新聞夕刊で9か月間連載され、新たな境地切り開いた。

 書店のレジ前の特設売り場には、タワーのように自著が高く積まれている。それを見た又吉さんは、
「いよいよ発売、うれしいですね。読者の方にどう読んでいただけるか、とても楽しみです」
と、喜びを語った。

 サイン会には長蛇の列ができ、一番乗りした埼玉県の男性会社員(50代)は、興奮した様子でこう話す。
「実際に又吉さんと向き合うと緊張しました。でも、フランクで知的な感じが素敵でした。初の長編小説ということで、いまから読むのが楽しみです」
 中には会社の有給休暇を取って来店した人もいた。

 三省堂書店では、『人間』のポスターが至るところに貼られ、神保町本店のほか有楽町店と名古屋店のスタッフ全員が特注の『人間』Tシャツを、10月いっぱい着用。店内は『人間』一色となっている。

 その後に行われた記者会見では、こんな秘話も披露した。
「準備期間も含めると、1年くらいかけて書いていた。以前は家とか書斎とか、集中できる場所でないと書けなかったが、(連載の締め切りに)本当に追い込まれて路上でパソコンを開いて書いたこともありました(笑)」

 そんな『人間』は、執筆執筆時の又吉さんと同じ38歳の男が主人公。青春時代とその後も続く蹉跌、そして仄かな救済が描かれ又吉文学の代表作との呼び声が高い。
「20代の頃、何者かになろうとしたがなれなかった。なれなかった自分とは何者なのか。30代後半になって夢がどう変化し、新しい希望がどう生まれるのか。そんなことを考えながら書きました。前の2作と比べ、登場人物と自分が一番近い作品になっています」
 という又吉さん。

 ほかにも、飛行機のドアが閉まるまで携帯で執筆するなどしたとも話す。連載ならではの苦労もあったという。
「せっかくの連載だったので、最初に全部書き終わって小分けするよりも、連載ならではライブ感を感じながらやりたいと思っていました。(その後の展開が)自分でもどうなっていくのかわからないような流れでも、あえて戻らずに引き受けました。その流れのおかげで物語が動きました」
こうして誕生した『人間』は、特に「僕達は人間をやるのが下手だ」の一文がキラリと光っている。

 さらに同日の夕方、東京・渋谷駅付近、新宿駅付近、そして紀伊國屋書店新宿本店の三箇所で、『人間』発売を特集した毎日新聞「広告号外」が配布された。
『人間』は、毎日新聞夕刊で昨年9月から9か月間連し、今回、書籍化された。
号外には、連載が始まった経緯や、この日の午前中に行われたサイン会の様子などが詳報されている。

 紀伊國屋書店新宿本店の書店員たちが、同書店を訪れたお客や道行く人々に「又吉直樹さんの『人間』、きょう発売です」と号外を渡しながら声をかけると、「新刊、出たんだ」と興味深そうに立ち止まっていた。

 書店にたびたび訪れている又吉さんは、この日の午後に行われた発売記者会見では。
「書店に行って、買おうと思っていたのとは別の本を手に取ったりっていうことがあると思います。僕も、考えていなかった本を2~3冊買ってしまうことあります」
と語っていた。

 また、小説執筆の原動力をこう明かした。
「小学校のときに、ノートに漫才とかコントを書き始めました。ただ、別にそれでご飯食べていこうと思っていなかったし、今思えば書かずにいられなかったから、本を書くのも同じようなことです」

 今作では、「何者にもなれなかった」主人公が過去と向き合い、実現できない夢があることを悟る。夢は変わっていい。そう語る又吉さんの真意は、『人間』の中にあるかもしれない。

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